WONDER BOY 第6章 オスカーとスカートの男の約束の日、一角兎の剥製の青白い眼と眼、と抱えた花
ぼくはすこし緊張していたんだけど、いつも通りゲームしながら歩いていた、学校から一回、帰って約束の場所を行くのを躊躇った、でも、やっぱり気になるから3つめのドーナツを半分残して出かけることにした、学校の裏の花の公園までは歩いて10分ぐらいだけど、とても面倒だった、ちょうど公園の入り口に差しかかったとき、人とぶつかったんだ、「イテッ」ぼくはおなかあたりに体当たりされおもわずゲームを落とした、ちょっと眼をみて睨んだら、去年クラスメイトだったリルだった、リルは酷く青白い顔をして、眼は泣きそうに充血していて、口はなにか言いたそうだった、でもリルは勢いよく学校の方へ走っていった、(イテー…)ぼくは地面に落ちたゲームを拾い上げ、公園の入り口に立って、中を見渡した、ブランコのところにあの男がいた、ぼくは近くまで行って話しかけた、「おい、約束通りまたきたぞ」男はいつも通りスカートを履いていて、きょうは頭に白い小さな花の冠をつけていた、長い髪が本当に女の人みたいだったけど、男は髭が生えている、「….彼女も誘ったんだけれど帰ってしまった…」男は残念そうに言った、「そりゃそうだろ、お前みたいな男に誘われたら女子はみんな帰るだろう、普通」「…..そんなに僕はおかしい?…」「うーん」ぼくは悩んだけれどなにも言わなかった、話題を変えた、「で、何処に行くんだ?」「….あぁ、ぜひ、僕の家に来てほしいんだ….」「おまえんち?なにすんの?」「…王冠パーティー..」「なにそれ」「…とりあえず、いこう..来てくれるよね?ちょっとまっててオスカー..花をたくさん摘んだんだ」…男はちょっと離れたとこをに置いてあるたくさんの白い花と黒っぽい紫の花を両腕に抱えて持ってきた、「…さ、行こう..」「おまえ家はどこなの?」「…ずっとあっちの..そうだ、あのさっきの女の子の家の近くだよ」ぼくと男は歩きながら話した、歩いている間も、男の腕に抱えられた花からすごい甘い匂いが出され、ぼくたちをまるで包み込んでいるようだった、学校がよく見えるくらい近くに来ると、ぼくはリルの家の場所を思い出して立ち止まった、「そういえば、リルの家って…え.あんな遠く?歩いていくとか無理だよ、バス乗らないと絶対無理」だから、ぼくは太ってるのも知っていると言わんばかりの眼で男を見てやった、男は眉間に皺を寄せて、ぼくを見た、「..バスね..スクールバス?」「スクールバスは無理だろ、、おまえ、それ、、」ぼくは考え込んだ「無理無理、スクールバスは無理だから公園の近くからでているバスにのろう!」「…あの黒いバス?..」「そう、あれ」ぼくと男は花の公園まで戻って、さらに150メートルくらいはなれたバスストップでベンチに座ってバスを待った、ぼくはゲームのつづきをして、男は花の品定めをしていた、15分くらいすると黒い街のバスが来た、「おい乗るぞ」「..うん..」バスに乗って席にふたりで並んで座った、バスにはぼくたちのほかに白髪頭のおじいさんがひとり座っているだけだった、おじいいさんは熟睡しているようで、ぼくたちが乗ってきた事にも気がつかない様子だった、バスの窓からはベンチが見えて、ベンチの下に落ちてる男が捨てた5〜6本の花が悲しげだった、花の公園の前を通ると公園では僕の近所に住む8歳の男の双子が遊んでいるのが見えた、バスで15分くらいして、「…あぁ、ここらへんだ、降りよう..」と男が言うので、バスを降りた、おじいさんはまだ眠っていた、ぼくは去っていくバスを見て、帰るとき面倒だなとすこし思った、男についていって暫く歩くと黒い屋根で壁は白い古い家が現れた、まわりには木がたくさん生え、小さい庭の芝生は手入れがされていなかった、庭には古く汚いロッキングチェアが置かれていて、椅子の下にはコーラの瓶が何本か転がっていた、そして、男の家のあたりは不思議な変な甘いクッキーみたいな匂いがした、「…ここ、どうぞ..」男は白い木のドアを開けて、首を傾げた、ぼくはすこし躊躇したけれどここまできて帰るわけにも行かないので、お邪魔した、中に入ると部屋は薄暗く、長いくらい廊下にはたくさんの額に入った写真や絵が一面に飾ってあった、誰かが描いた男の下手な似顔絵や老人の写真、なかにはMcDonaldsの紙袋までピンで刺してあった、ぼくはきょろきょろしながら進むと、リビングに入った、「うわぁ」ぼくは声をあげた、リビングにはたくさんの動物の剥製が置いてあった、13体くらいはあっただろうか、見た事のない剥製も4〜5体あった、剥製の眼はとても光っていて、ぼくは恐かった、剥製と共にたくさんの本棚が置かれていて大量の本もあった「…あぁ驚かせてしまってごめん..」男はライトのスイッチを入れたが、部屋は薄暗く、やさしい小さい淡い光が剥製にあたるだけだった、リビングの剥製に囲まれるようにあるおおきな古いダイニングテーブルに男はたくさんの抱えていた花を置いた、そして、黒い大きなガラスの花瓶をどこからかもってきて無造作に生けた、「..ここじゃないんだ、二階の部屋にきてほしい、そこでパーティをするから..」男は何も言えなくなってるぼくを促すように、大きな花瓶を抱えてリビングから出ながら、言った、「う、うん、うわぁ」ぼくは振り向いてまた悲鳴をあげた、リビングから廊下へ出るところの壁には大きな兎の剥製があって、大きな耳の間からは長い鋭い角が生えていた、眼は青白く不気味に光っていて、何よりも黒と白のボーダーの兎だった、「う、、ウサギ?」ぼくは眼をまんまるくして兎を凝視しながら言った、男はリビングから出たところからこちらの方へ戻ってきて、頭をかがみ、兎の剥製と眼を合せた後にぼくの眼を見ていった、「..これはね、一角兎だよ、これはね魔女にもらったんだ…」「まま、、まじょ?」「…そう、ちょっとむかし、僕がとてもよくしてもらった魔女だ..」男は兎の剥製と鼻を擦り付けながら話していた、「魔女ってほんとにいるのかよ、うそだろあんなのつくりもの」「…君は信じない?僕の話..」男は僕の眼をじっと見た、「、、、、、」長い沈黙、一角兎の眼がギラリとさらに光を増す、「はやくその二階のところでパーティしようぜ、はやく」ぼくは急いでリビングへ出て、廊下の横にある階段を上った、男はぼくのあとをついてきて、「…階段をあがってすぐの部屋だ、そこの扉を開けて..」ぼくは階段を上りきった眼の前のある、黒いアーチ型のドアをあけた、「!!」またぼくは驚いた、「うわぁスゴイ」部屋はそんなに広くなくぼくの子供部屋と同じくらいの広さで、部屋は全部真っ白だった、すべてに黒で絵が描かれていた、「ここすごいおまえが描いたの?」男は黒い花瓶を小さなテーブルに置いた、テーブルや椅子にも絵が描かれている、「…ううん、ちがう、ある人が勝手に描いていったんだ、それから僕はここがとても気に入ってね、パーティする場所にしているよ..」「へー..すげぇ..王冠もある」テーブルの上には白い小さい王冠と大きい王冠が置いてあった、「…パーティだからね、ほら、上にも旗をつけたよ..」天井を見るとそこにはペイントされた旗がところ狭しと張り巡らされていた、「うわうわすごい」ぼくは興奮して叫んだ、(剥製より全然いい)正直にそう思った、「…さ、王冠被って、僕はいまPIZZAとコーラとポップコーンをもってくるよ..あと、アイスクリームも..」ぼくは紙でできた、王冠を被って椅子に座って待っていた、男はたくさんのPIZZAをもってきていっしょに食べた、男も王冠を被り、PIZZAをおいしそうに食べた、ぼくもたくさんたくさん食べた、「…そんなに食べるから君はふっとているんだね..オスカー」アイスクリームを抱えながら食べているぼくに男は言った、ぼくは食べながら飛びでた自分のお腹をちらっとみて、またアイスクリームをたべた、「リルもくればよかったのにな、残念だったな」「…そうだね..また誘ってみよう、ぼくはいつもここでひとりでパーティをしているからね..きょうはオスカーが来てくれてとてもよかった..」ぼくは笑って男を見た、そして、随分と時間が経った、ふと時間が気になった、「ねぇ今、なんじ」ぼくは4本目のコーラの瓶を床に置いて言った、「…わからないな..この部屋は時計がないから..」ぼくは廊下をでて、階段上の窓をみた、窓の外は真っ暗でとてもまずい時間だとすぐにわかった、「ママに怒られる、、ごめんぼくはもうかえらないと」「…そうか..」ぼくは紙ナプキンで口を拭くと急いでその部屋を出た、出る時にもういちどその部屋を見渡した、男はこのとても不思議な空間で椅子に座ったままこちらを向いてコーラを飲んだ、「おまえはおかしくないとぼくはおもう、なにかいろいろ言われそうだし、スカートとか、でも、ぼくはおかしいとはおもわない」「………」「それとぼくは魔女の話も信じる」「………」「じゃあなバイバイ」ぼくは階段を急いで降りた、後ろから「..バイバイ、また..」と男のいつもよりすこし大きい声が聞こえた、ぼくは玄関をでるときリビングの方を何気なく見た、真っ暗闇の中、まだ、剥製たちの眼は光っている、でも、恐さはなかった、どこかその眼は、男の眼に似ている、強く儚く光っていてすこしこわく鋭い眼だ、(バイバイ)とあたまのなかで兎に言い、ぼくは玄関を飛び出し帰りのバスストップまで走った、あたりは真っ暗で、夢中だった、途中ゲームを男の家に忘れたのを思い出した、こんど、あった時に返してもらおう、そうだ、いつかあの男も家へ招待しよう、今度のパーティはゲームをしてもいいな、とおもった、この日、ぼくはスカートの男に出会ってから、4回目の遊ぶ約束の日だった、だけど、5回目はなかった、ぼくはもう男に会う事ができなかったから、この日から2ヶ月くらいしたとき、リルから男が死んだ事とリルがあの日、公園で見た話を聞いた、ぼくはいまでもあの兎の剥製の青白く光る眼とあの男の眼を忘れることができない、ぼくがいつもあの男を思い出す時、いつも男は、花の公園でいっぱいの白と黒の花を抱えて笑っている。
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